幕間(第10話)

北海 ルドルフ空軍基地 201X年/11/29 8:21 C格納庫


「おーおーなんだこりゃ。お上もずいぶん太っ腹だな。うちの可愛い子猫ちゃんの交換部品もオマケでついてきたんだろうな?」
格納庫の中央に鎮座する大柄な機体を見上げて黒猫が口を開く。機体は濃淡の灰色と青紫で幾何学的に塗り分けられている。王国軍対艦攻撃機の標準的な北洋迷彩だ。
ヘンシェル大尉に予備機とられちまったからな。先月工場から来たぱっかりの新品だ」整備長は埃ひとつ付いていない機体の外板をぽんぽんと叩く。壊れた太鼓を打ち鳴らしたような音が冷たい格納庫内に反響する。
「C型をベースにこれまで機外搭載だった装備を機内の空きスペースに移設、電子系統も最新バージョンにアップデート済み。あとこっちでやるべき調整はこれさ」
整備長がつなぎのポケットから取り出したFS-04の図面を大きく広げる。
「ほう……」
烏は興味深そうにそれを見つめ、
「やると思ったよ」
黒猫は呆れた表情を浮かべた。
「さぁやるぞお前ら! タイムリミットは明後日の夕方!」
そんな二人の反応をよそに図面を左手に掲げた整備長が整備兵たちを鼓舞する。タイムリミットが間近なのは機体の到着が遅れたことによるものだ。
「おー!」
「やったるぜ!」
整備兵たちが拳を上げて応える。彼らの意気込みと熱意なら恐らくやり遂げてしまうだろう。
「あーあ、うちの整備員はいつからアーティストになったんだ?」
「さぁな」
黒猫のぼやきには答えず、烏は格納庫の天井を見上げた。



王都  新市街 201X年/11/30 18:32


ノックの音に気づいた魔女は椅子から立ち上がってドアを開ける。ドアを開けると鷲が右手を上げて挨拶する。
「なにか?」
少し開いた胸元から覗く魔女の白い肌からぐっと視線を逸らしながら鷲が口を開く。
「無用心だな? ちょっと飲まないか」
「構いませんよ」
前半の言葉を軽く受け流して魔女は頷く。
「いい店を知ってるんだ。お前の受勲祝いだ。奢るよ」
魔女はさっと机の上に置いてあるピンで髪を止め、上着をクローゼットから取り出して羽織った。
「予定時刻ジャストかしら」
「残念、プラス10セカンドだ」
冗談交じりに鷲が答えた。


暗いバーの中には艶やかなジャズの音色が響き、アルコールと煙草、そして肉の焼ける匂いが充満していた。魔女の黒髪がそっとその空気の中をかき分ける。
「俺はエールとウインナー、お前は?」
「赤ワインをひとつ。それとチーズの温野菜添えを」
メニューをざっと眺めて魔女が答える。
「北海の魔女に」
「乾杯」
二人はグラスを掲げ、軽く当てた。魔女がそれを口に含むとふわりと芳醇な葡萄の香りが口腔を満たし、体温で開いた風味が舌の上を飛び跳ね、熱気を帯びた流れが喉を通って食堂へとダイブしてゆく。
「美味いだろ」
そう言いながら鷲はソーセージを口へ運ぶ。
魔女は頷いた後に視線を皿に向け、そっと瞼を閉じる。
「焼いた肉の割にはね」
素っ気なくそう言うと再びグラスを傾ける。恐らく先の出撃で遭遇した新兵器のことを言いたいのだろう。
「お前、わざと言ってるだろ」
鷲の言葉もどこ吹く風、魔女はいつものように冷たく返す。
「魔女は意地悪って相場が決まってるんでしょ?」
髪をかきあげてふっと息を吐く。
「ちょっと見ない間に随分可愛げがなくなったもんだ」
ため息をつく鷲。
「やはりあのとき警告しないほうが良かったかしら」
真顔で言いながら魔女がブロッコリーをフォークに突き刺すと、金属と陶器のぶつかる硬い音が鳴る。沈黙が二人の間に鎮座する。
「本当は怖かった」
沈黙に耐えかねた魔女が口を開く。
「言わなくてもわかってるさ。俺だって死ぬかと思ったよ」
つい一週間前のことだ、あの時の息遣いも、耳をつんざく断末魔の声も鮮明に記憶に刻まれている。
あそこでミサイルを投棄していなければ今こうして盃を交わすことも叶わなかっただろう。軽くなった機体のおかげでなんとか魔女たちのエコー隊は無事全員が生還できた。
「ま、相棒がスクラップになっちまったのだけが心残りだよ、俺は」
魔女がこれまで見てきたパイロットの中でも鷲は特別乗機に愛着を持って飛んでいる人物だった。乗機を"相棒"と呼ぶのはほんの一端、絶対的な愛機への信頼こそが彼がもつ自信の根拠なのかもしれないと、魔女はふと思った。
「お前の機体の主翼に描かれてる魔女だって同じようなもんさ。アレを考えた奴は天才だな」
魔女の乗機に描かれた青紫と灰色の迷彩に紛れたとんがり帽子をかぶった黒髪の魔女。「あれ、最初はジョークだったのよ」
たしか最初に気づいたのは機付長だったか。塗装規定の隙間を縫うようにして冗談半分で塗られていたものがいつの間にか共和国の船乗りたちに恐れられるまでのトレードマークになっていた。
「てっきりお前が現代アートに目覚めたのかって、こっちの基地じゃ賭けにまでなったんだぜ?」
鷲はグラスに残ったビールを喉を鳴らしながら飲み干す。
「まさか」
自然と笑みがこぼれる。
――つい2週間前まではいがみ合いながらブリーフィングを受けていたというのに、変なの。
「何がおかしいんだよ」
鷲は不機嫌そうに口を曲げる。
「全部、って言ったら始末書ものかしら」
グラスの中の深い赤紫の液体をゆらゆらと揺らめかせながら魔女が言う。ずいぶんと温くなってしまったワインは香りも枯れ、ただの酸い色水になりかけている。
「いいや? お前の勤務態度を最低にした報告書を提出する」
「公私混同ね」
魔女は残ったワインを流し込み、艶っぽく息をつく。鷲は苦笑しながら店員を呼びつけて次の注文を頼んだ。


「っと、とと……おい、大丈夫か?」
夜も更け、そろそろ引き上げようと会計を済ませたところで魔女が足をもつれさせて鷲に倒れかかる。
「あ、隊長……」
魔女はとろんとした目で自分を抱き抱える鷲を見上げる。鷲はため息をついて魔女を立たせるが、平衡感覚が完全にだめになっているのか。再びよろめく。
「お前相当回ってるな」
「うん」
年端も行かない少女のように素直に頷く。
「チッ……乗れ」
鷲は舌打ちすると魔女の前にかがむ。
「はーい」
意志を汲み取る程度の理性は残っているのか魔女は遠慮無くその背中に身を預ける。
「兄ちゃんやるな、ベッドの上で飲み直すのか?」
「熱いねぇ」
「うるせー!」
酔っぱらいたちからのヤジを振り払って鷲は酒場を出る。魔女はすでに穏やかな寝息を立て始めている。背中に当たる柔らかな感触に意識を向けないよう鷲は魔女を背負い直した。


「おい、鍵はどうした」
ようやく部屋までたどり着いた鷲は背中の魔女を揺さぶる。
「んー?」
魔女は気だるそうに首を傾げる。
「鍵だよ。カギ!」
「今出すからー」
鷲の背中から降りた魔女はおぼつかない手つきで上着のポケットからカードキーを取り出す。
「はい」
鷲はそれをひったくるとドアに付いたリーダーに読み取らせる。施錠状態を示すランプが赤から緑に変わり、微かなモーター音と共に鍵が開く。
「ほら、来い」
魔女の手を引いて部屋の中に導く。魔女は親に連れられた子供のように素直に付き従う。上着のボタンを外してハンガーに掛けると魔女は倒れこむようにベッドに横になる。 
「隊長〜」
いつもの声とは違う艶っぽい呼び声に鷲は肩を震わせる。魔女はゆっくりと右腕を伸ばして鷲の袖を引っ張り、左手で手招きする。
「なんだ?」
魔女の意思を汲み取った鷲が魔女の口元に耳を寄せる。
「ごちそうさまでした〜」
ぎゅっと頭を抱きしめられ、鷲の耳に魔女の息がかかる。頬に柔らかな魔女の唇が押し付けられる。
「んなっ!?」
予想のはるか斜め上をいく魔女の奇行に鷲は困惑する。彼女なりの返礼が終わって気が済んだのか再び魔女は目を閉じた。
――何を考えているんだ、こいつは。
ため息をついて起き上がろうとする、が。
「……おい、離せ」
魔女は鷲に抱きついたまま離れようとしない。首に魔女の腕が巻きついているので身を捩って抜け出すこともできない。
「どうなっても知らないからな」
実際体の一部はどうにかなりそうだったが、理性でそれを押しとどめて鷲は目を閉じる。ゆらめく意識を酒精が暗い中へと沈めていった。


王都 新市街 201X年/12/01  7:59


窓からさす朝日に鷲は顔をしかめて背を向ける。まだ少し頭が重い。昨日は最終的に何杯飲んだかも記憶にない。
――チェックアウトまでもう少し寝ていよう。
ベッドサイドの時計で時間を確認しようと薄く目を開いて鷲は違和感に気づいた。
「ん?」
目の前で黒髪の美女がすやすやと寝息をたてている。
「あれ?」
――そういや俺、自分の部屋に戻ったっけ?
魔女を誘って知り合いのパブで飲んだ、これははっきりと憶えている。その後潰れかけた彼女を部屋まで送った。――その後は?
飲んでいる最中は勤務態度のことで冗談を言ったが、もし鷲が恐れていたことが昨夜起きていれば良くて減俸、下手をすれば不名誉除隊まであり得る。
鷲は毛布をめくって自分が"重大な間違い"を犯していないことを確認する。自分も魔女もちゃんと服は着ている。
鷲が一安心して深く溜息をつくと同時に安っぽい電子音のアラームが鳴り、魔女が目を開いた。その漆黒の瞳が鷲の姿を捉えて焦点を定める。
鷲は身を起こそうとしたまま硬直する。
「あ、おはようございます……何で隊長がここに? 部屋は隣ですよ」
拍子抜けするほどあっさりした魔女の反応に鷲は拍子抜けする。てっきり悲鳴でもあげられるかと思っていた鷲は安堵と脱力の混ざった溜息をつく。
「お前はまず自分の身を案じろ。昨日も言った気もするが」
「ふわぁ……」
鷲の言葉を気にせず魔女は大きくあくびをする。大きく伸びをして上半身を伸ばす。皺だらけのシャツ越しに豊かな胸が強調され、鷲はバツの悪そうに視線を逸らした。
ベッドから立ち上がった魔女はスリッパをぱたぱたと鳴らして鞄からシャツと下着を取り出してバスルームへ向かう。
「覗かないでくださいね」
鷲に釘をさすと魔女はドアを閉めて鍵を掛けた。
バスルームから漏れ聞こえる水音を聞きながら鷲はテレビのスイッチを入れる。液晶画面にニュースレポーターが映り、今日のニュースヘッドラインを伝えている。
『昨日王都近郊のファーンバラ基地において航空ショーが行われ、二人の女性パイロットに対して勲章の授与が行われました……』
画面に曇天の空をバックに舞う砂色のFS-04が現れ、、次いで特別塗装機のデモフライトやアクロバットチームの曲技飛行の映像が映される。
鷲は冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを飲みながら興味なさ気な視線を画面に向けている。
実際に現場にいたものにしかあの迫力はわからない。ジェット燃料の鼻を突く匂いとスモークのかすかな気管への刺激、そして空が落ちてくるかのような音圧。航空ショーですらこうなのだから、実戦は推して知るべしといったところか。
カギの外れる音がして首もとにタオルをかけた魔女が出てきた。鷲の隣に座ると髪に残った水気をとりながらテレビ画面に目を向ける。
「昨日の映像?」
「ああ」
鷲は頷く。
「どうせならあの火の壁のガンカメラ映像を流せばいいのに」
魔女は
「そんなもん流してみろ。馬鹿な連中が空軍を無人化すべきといいだすぞ」
「私たち失業ね」
魔女はおどけた口調で軽口を言う。ポケットから電子タバコを取り出した鷲がそれを咥える。
「俺達は税金泥棒呼ばわりされてるうちが平和なんだよ」
先端の発光部がオレンジ色に輝き、ミントフレーバーを溶かした水蒸気が肺に満ちる。
「あれ、いつの間に煙草やめたんですか?」
魔女がこの隊に配属されたばかりの頃の鷲は何かの区切りがあると煙草をふかしていた。
「別れた女房が煙草嫌いでね。こっちのほうが楽だしな」
白い霧を吐きながら鷲が答えた。
「あ、なにか飲みますか?」
「んじゃコーヒー、ブラックで」
魔女は手早くポットの湯をインスタントコーヒーに注ぐ。時折湯を注ぐ手を止めているのは香りと濃さを調整するためだろう。
「お前、意外とそう言うの似合うよな」
その姿を眺めながら鷲はぼそりと思ったことを漏らす。実際魔女はそっけないところと冷たい眼差しを除けば結構な器量よし。いわゆる、黙っていればかなり可愛いの部類に入る女性だった。
「何がです?」
魔女は訝しげな視線を鷲に向けながらマグカップをり両手に持ってテーブルに戻る。ルドルフ基地に居る者の中にはこの目で睨まれるのが好きだと言い出す輩までいる。
「なんでもない」
魔女が鷲に右手に持った方のカップを差しだす。受け取った鷲がそれに口をつけようとしたところで魔女が再び口を開く。
「で、なんで私のベッドで寝てたんですか?」
危うく吹き出しかけそうになったのを押しとどめて鷲はひりつく舌を冷ます。
「殴らずに聞けよ?」
鷲はマグカップを口に付ける。苦味と香りが頭にかかった靄がすっと晴らしていく。
「大丈夫です、事と次第にとっては蹴ります」
微笑みながら魔女が答えるが目は本気だ。
「穏やかじゃないね」
鷲は昨日の経緯を話す。
「それはご迷惑をおかけしました」
鷲の話を聞いているうちに魔女の方はだんだんと小さくなっていき、自分の醜態に頬を真っ赤に染める。
「いや、酒に酔ってるお前も中々色っぽかったぞ?」
実際に鷲はそれ以上のことをされたりもしたが、子孫を残せなくなりそうなので伏せておくことにした。
「っ! ……このことは基地の皆には言わないでくださいよ?」
「気分次第だな」
鷲は昨日のお返しとばかりに意地の悪い笑みを浮かべた。



北海 ルドルフ空軍基地 201X年/12/01 15:38


低いエンジン音を寒空に響かせながらつがいの水鳥が古巣に帰ってきた。
管制塔の職員たちは待ち望んだ凱旋に拳を突き合わせる。
アドラーよりルドルフタワー、方位320より接近中」
「了解アドラー、ランウェイ15への着陸を許可。ウインド250、5ノット」
先行する鷲から魔女の機体が離れ、滑走路の軸線を一片にした場周飛行に入る。そのまま真っ直ぐに鷲は滑走路に舞い降りる。
「おかえり、大尉。2番スポットだ」
鷲は機体を減速させながら滑走路脇の大きくえぐれた地面を振り返る。むき出しになった地面が茶色い水たまりになっている。どうやら鷲のかつての愛機は完全に撤去されたようだ。
「ヘクセ、ランウェイクリア。着陸可能」
続いて魔女に直陸許可が出される。
「了解」
旋回しながら待機していた魔女がフラップと車輪を下ろしてまっすぐに滑走路に下りてくる。冷たい路面にタイヤが擦れて白煙を上げる。サスペンションがFS-04の巨体を優しく受け止める。
「おかえり、北海の魔女。1番スポットへ」
減速の反動を体で感じながら久々に帰ってきた基地を見回す。民間用ターミナルビルの横では双発の貨物機に整備員がとりついて復路のための点検をしている。
滑走路を挟んで向かい側の格納庫では魔女たちが帰ってくるまでのつなぎとして派遣されていたらしき機体がだらしなく油圧の切れた尾翼を垂れ下げて整備を受けている。
指定されたスポットでは既に整備クルーが待ち構えており、魔女が機体を止めてエンジンを切るとすぐに梯子がかけられた。
ハヅキ中尉、司令よりC格納庫に出頭せよとのことです!」
魔女がキャノピーを開けると整備兵が梯子を登ってきて出頭命令を伝える。
「格納庫? 司令室ではなくて? わかった。すぐに行くから」
魔女は頷いくとヘルメットを渡して腰をあげる。
「呼び出しだって?」
先に地上に降りていた鷲が肩をほぐしながら梯子を降りる魔女に声をかける。
「格納庫に、だそうです」
外した髪留めのゴムを左腕に巻きながら魔女が答える。
「俺もだ、先に行っててくれ」
「わかりました」
髪をたなびかせながら魔女は格納庫へと足を向けた。


魔女が格納庫の巨大な扉に据え付けられたドアを開けると、連続した破裂音が鳴り響き、思わず目をつぶった魔女に液体がかけられる。
「ひゃっ、冷たっ!?」
炭酸ガスの臭いと酒精の香りが魔女を包み、何をかけられたのかを把握して目を開ける。
「おかえり、ハヅキ中尉。そしておめでとう」
シャンパンの瓶を脇に抱えた司令が右手を差し出し、魔女がおずおずと差し出した手をぎゅっと握る。
格納庫の足場からは
ハヅキ中尉受勲おめでとう!』
と書かれた横断幕が垂れ下がり、食堂から運んできたらしきテーブルの上には豪勢な料理が並んでいる。
「よし諸君、胴上げを許可する。ただし怪我はさせるな」
司令の言葉に魔女を囲んでいた兵たちが群がり、魔女の華奢な体を持ち上げて空中に放り上げる。
「ちょっ、やめてっ!」
魔女は空中で手足をばたつかせるが逆に周囲は普段見られない魔女の慌てように歓声を上げる始末。
たっぷり12回ほど生身での無重力体験をさせられた魔女がようやく下ろされてふらついているところに後ろから近づいた女性兵士がとんがり帽子をかぶせる。
手作りだからか、ところどころ歪になっているが逆にそれが実感と不気味さを増している。
「おい写真だ! 誰かカメラもってこい!」
「似合ってますよ、中尉」
シャッター音が断続的に起こり、笑い声と悲鳴、賞賛と酒瓶の栓が抜かれる音が格納庫内に反響する。
「撮らないでええええええ!?」
「元気なもんだ」
いつの間にか格納庫にやってきた鷲がつぶやいた。
「さて、ハヅキ中尉には俺達からプレゼントがある」
ごついつなぎ姿の整備兵の一団が魔女に群がる人波をかき分けて魔女を引きずっていく。
当の魔女はもう何も怖くない、とでも言いたげな諦めの混ざった目で整備長を見上げる
「もう何が出てきても驚かないわよ」
そう言った魔女に目隠しがかけられ、整備長が手を引いて格納庫の階段を登っていく。
「外していいぞ」
「ん……」
魔女は目隠しを外して周囲を見回す。さっきは見ることが出来なかったが、今は格納庫に鎮座する機体が上からよく見える。
見慣れたFS-04、塗装は愛機と同じ北洋迷彩。そして左主翼には一回り大きくなったとんがり帽子をかぶった魔女のシルエットが描かれている。
「なんか一回り大きくなってない?」
「やっぱ分かるか、実は胸も一回りでかくなってる」
「……ばか」
嬉しさと恥ずかしさの入り交じった顔をしながら魔女は目を閉じた。
――やっぱり、私の居場所はここなんだ。